自然豊かな郊外の住宅地に建つA邸の一番の特徴は、家の中心に設けられた『図書室』だ。大容量の本棚には、お気に入りの本や幼い頃に親しんだ漫画、思い出溢れるアルバムなど、家族の歴史や想いが並べられている。過去の自分と対話したり、思い出話しに花を咲かせたりと、そこは今や家族の原点とも言える場所。「家族みんな本好きだし、大切に仕舞い込んでいてはもったいないと思って図書室を作ってもらって正解でした」と話す奥様の笑顔が家族の満足度を物語っていた。
A邸には家族を思いやった工夫がまだある。『回れる家』と銘打ち、家族の時間がゆるやかに交わる回遊型の間取りにこだわった。図書室を中心にリビング、キッチン、それぞれのプライベートルームがつながっていて、同じ空間にいなくとも、どこか互いの気配を感じ合える安心感を大切にした。いずれの部屋も仕切れば完全個室にもなるし、開け放てば光と風が無尽に通うオープンな空間にもなる。『回れる家』はとても自由でおおらかなのだ。
床材にはご主人が惚れ込んだ桜の樹を使い、天井は梁を活かしたつくりに。造作の棚や収納などの家具、建具や幅木など、至ところに木の温かさを感じられる癒しの空間となっているA邸。2階の多目的ルームにおいてはテーマが『山小屋』と言うだけあり、床も天井も壁も全て木に囲まれている。A邸は木がもたらす安らぎに満ちているのだ。
木に限らず、自然の美しさを大切にしているA邸。玄関とリビングの壁の一部に珪藻土を使い、その自然素材ならではの風合いを楽しんでいる。その上部にはピクチャーレールを這わせ、今後季節を感じられるギャラリーにする予定だと言う。また、水周りから2階の「山小屋」へかけては『森』がテーマ。グリーンを配したり、リーフ柄の壁紙を用いたりと室内にいながらもまるで緑の中にいるような仕掛けを施している。四季を感じたり、想像力を働かせたりと自然と豊かな気持ちの中でこれからの家族の歴史を紡いでいける家だ。
【建築社/鹿児島】