レトロなデザインの建具に格子の見せ梁、そして幾年もの時を刻んだかのように渋く艶めく、柱や梁の深い赤錆色。「赤みの加減など、塗料の配合まで職人さんに細かくお願いしました」というHさんが新居に思い描いていたのは「大正モダン」の空間だ。天井には格子の見せ梁がダイナミックに広がり、それに負けない存在感をと床は無垢材を規則的に並べたヘリンボーン柄。照明スイッチにはどこか懐かしい感じが漂うクラシックスイッチを選ぶなど、全体のバランスから細部に至るまでこだわった住まいには、まるで大正の世から刻まれてきた長い時間にも抱かれるような重厚な寛ぎが漂い、お気に入りのアンティーク家具もしっくりと馴染んでいる。リビングには大胆に設けられた大きな窓。視界が爽快に開け、屋外と一体になれるような開放感も心地いい。
「住まいの前屋敷」だからこそ出来たとも言える、まさに職人技が光る味わい深い和洋折衷の家の完成だ。
雰囲気だけでなく暮らしやすさにもこだわった。ポイントの1つは、まず日々の生活に必要な空間や設備が1階に集約されていること。浴室などの水回りやLDKはもちろん、寝室も1階に配置し、2階は子ども部屋と書斎のみにしている。歳をとって階段を使わなくなっても生活に不便を来さないので安心だ。
もう1つのポイントは、「いかに家事を楽にできるか」ということ。キッチン、浴室、脱衣室、ランドリーがまとまっているうえ、ランドリーには洗濯物をたたんだりアイロンをかけたりできる家事台があり、さらにクローゼットも隣接しているため、洗濯から収納までが無駄な動線なく片づけられる。高さのあるカウンターで流しが隠れているキッチンや、板戸によって中身が見えない収納などの工夫で、LDKは生活感を感じさせない寛ぎの空間。温かみのあるオレンジ色の間接照明で、夜は一層落ち着きに満ちた安らぎに包まれるH邸である。
【住まいの前屋敷/鹿児島】