黒の外壁がレトロモダンな風情を漂わすS邸。平屋建てのコンパクトな住まいだが、尾堂産業が手がけているだけあって、自然素材をふんだんに用いた上質な住み心地が魅力だ。同社が提案しているのは、小さく建てて大きく暮らす家。それにプラスして、近年では『家事楽ハウス』という、家事動線や収納のアイデアを詰め込んだプランが注目を集めている。
「小さな木の家を建てたい」と以前から考えていたSさん。本誌を見ていた時に、ピンとくる会社があった。それが尾堂産業。いてもたってもいられず、アポなしで事務所へ。「にもかかわらず、モデルハウスを見たい、と図々しいお願いをして」。そんなご夫婦を驚かせたのは、社長からの「では我が家へどうぞ」との返事。築10年ほど経つ家だが、室内に入ったとたん木の香りに包まれた。木の家のポテンシャルを体感したことが大きな決め手に。後日、理想的な広さである建坪24坪の物件を見学し、決意を固めた。
S邸は建坪26坪。すでに購入済みだった土地は決して狭くはない。あえて小さな家を希望したのは、子どもたちが独立した後の暮らしを想定してのこと。夫婦二人であれば、大きな空間がなくてもいい、と考えたのだ。そうした想いは、尾堂産業の家づくりにぴったりとリンクする。
ベースは、『家事楽ハウス』。そこにSさんのリクエストとして、「家相のよさ」が加えられた。実はこれにかなり苦労したのだそう。試行錯誤の末、なんと家相に一つも反することのない間取りが誕生。
そうなると使い勝手が悪くなるのでは、と心配になるが、家事動線も快適空間もオールクリア。とくに水回りはかえって便利になったそう。ダイニングとトイレの間に洗面台を独立させているのも家相からのアイデア。外に出したことで脱衣室にゆとりができ、ドライルームとしての活用が可能に。運も開けるかもしれない、うれしいプランとなった。これから家相を気にして建てる人は、ぜひS邸を参考に。
部屋数を必要最小限。その分、みんなが集まるリビングダイニングにスペースを割いた。勾配天井から小屋裏も含めた構造までもが空間の一部。温かみのある木の質感や表情は、まるで森の中にいるような心地よさを与えてくれる。浮づくり加工された床材の肌触りは、思わず寝転がりたくなるほどだ。
小屋裏は収納として設けたが、荷物だけではもったいないと、家族がくつろぐスペースをつくる予定。「以前、娘と一緒にここでお茶とお菓子を食べたことがあって。するとこの間、一人で小屋裏に座っておやつを食べていたんです」。どうやら、お気に入りの場所の一つに決めたらしい。
キッチン裏にあるクローゼットでの一括収納やくるりと一筆書きができる動線が、暮らしやすさをサポート。間仕切り戸は開放を常態としているため、取材日も娘さんがぐるぐると元気に走り回る姿を目撃。これだけ楽しんでもらえたら、家もさぞかし喜んでいるに違いない。
【尾堂産業/鹿児島】