緑の山や畑に囲まれ、どこかゆったりとした時間が流れる姶良市の郊外。懐かしさ漂う開放的な空間に、心地よく風の通り抜けるM邸がある。かつてご主人のご両親が建てた住まいの面影が随所に残る、古民家再生の家。玄関に足を踏み入れ見上げると、長い時間によって磨かれた太く頑丈な梁や柱が、この家の歴史を物語る意匠として趣深い存在感を放っている。
長年首都圏で暮らし、定年を迎えUターンしてきたMさんご夫婦。古い実家を再生して暮らすべく、当初、東京の大手ビルダーにプランニングしてもらっていたが、縁あって自然木の社長にも図面を引いてもらうことに。
提案されたのは、思いもよらなかった開放的な間取り。かつての広縁は居室に取り込まれ、水回りの位置は大胆に変わり、隣の馬屋まで生かされていた。土手に当たって方向を変える風、季節によって差し込み方の変わる陽光など、風や光まで計算された住まい。自然の心地よさを豊かに感じられる暮らしを、そのプランに感じた。
奥様が希望した対面キッチンは母屋の中心にあり、キッチンに立てば部屋全体を見渡せ、南と西の窓から庭へとつながる開放感が心地いい。リビングとつながるウッドデッキは午前中日陰になり、特に夏の朝は涼やかに過ごせてご主人もお気に入りの場所だ。奥様も友達を招いてのランチやお茶会を開くのがこれからの楽しみとのこと。
かつての馬屋は本宅と一体になり、単なる収納だった2階部分は、来客時の宿泊部屋や趣味の部屋として活躍する。ここには隠し部屋のような小部屋もあり、遊び心のある空間だ。
四季折々の植栽に彩られた庭や畑が目の前に広がるM邸。玄関前の土間空間には、庭や畑仕事の合間に休息をとれるテーブルが設けられ、近所の方々も集まるコミュニティスペースになっている。自然の景色と木の肌触りを楽しみ、土に触れ大地の恵みを育む暮らし。土地の魅力を満喫する「いなか暮らし」が楽しみなM邸である。
【建築工房 自然木(じねんもく)/鹿児島】