行きつけの美容室のオーナーさんからそこの店舗を工事した工務店を紹介されたのが家づくりの始まりというSさん。漠然としたイメージしかなかったものの、要望を伝えて、提案されたプランをみて、「こんな家が欲しい」とご夫妻でモチベーションがあがったという。「個性的な家を目指しました」と話すS邸の個性とは、決して奇抜なことではない。ナチュラルな木をふんだんに使ったシンプルな家だが、なぜか見る人を惹き付けてやまない魅力に溢れている。家づくりの打ち合わせでは、奥様がかねてから集めていた雑誌の切り抜きが、イメージを伝えるのに役立ったという。
ポーチと玄関は天然大理石のタンブルストーン。玄関とLDKの境を上質感のある無垢の木の框戸にしたのも雰囲気づくりに大きく役立っている。壁付けライトですっきりとした印象の吹き抜けのLDKは、どこか外国の部屋のよう。床材は色以外にもこだわって、フランス産の幅広のアンティークフローリングを探してもらったというから納得だ。「家の中にいながら、月や星空を眺めたい」というご主人の願いは、家の中心のリビング階段に天窓を開けることで叶った。
「キッチンにいるのが楽しくて、ほとんどここに立っています」と奥様。白木のシステムキッチンや、収納棚、ブリックタイルで仕上げた壁など、白を基調としたキッチンはまるでカフェのようだ。カウンターはリビングサイドが収納棚になっていて、一部は珪藻土を塗った飾り棚にするなど細部にまで遊び心が見える。綿密に打ち合わせて設計されたバック収納は、食器や食品をはじめゴミ箱まで指定位置に収まるように計算されているため、キッチンは物がなくすっきりとした印象だ。「必要な場所に収納を作ってもらったので、新しく家具を買う必要はありませんでした」。LDKには地窓を開けた和室も隣接させた。3帖とコンパクトだが、小さな子どもが遊んだりお昼寝をしたりする場として大活躍している。
引っ越しは6月末だったというファミリー。「住まいは夏を旨とすべし」と昔から言われるが、ジメジメと蒸し暑い梅雨時や灰の降る真夏も、室内は涼しくてクーラーなしで過ごせたとうれしそうに話してくれた。そしてこれから迎える寒い季節、吹き抜けのLDKからリビング階段へと続く広々とした空間は、家自体の構造が高気密高断熱に優れていることによって、快適な環境に保たれる。
【建築社/鹿児島】