爽やかなライトブルーと白のコーディネートが印象的なT邸は、桜島を一望できる高台に建つ平屋建ての住まい。かわいらしいナチュラルテイストで統一された室内は、長年愛用されてきたことが一目でわかる、味わい深い家具たちがしっくり馴染む居心地の良い空間だ。
「以前の家はバスルームが2階にあったんです」。骨折で自身の身体が自由に動かなくなるという経験をした奥様は、階段の上り下りや窓の開け閉めなど、それまで気にもしていなかった生活動作の一つ一つに不便を感じ、「この先、この家では暮らせなくなる」と不安になったと言います。子育ての時期は過ぎたものの、現在は別居している高齢の両親ともいずれ一緒に暮らすことになる。そう考えたとき、家を建て替える決心をしたのだそう。親の介護や自分の老後などを視野に入れた今回のプランニングでは、動きやすいシンプル&フラットな間取りとともに、家の中でも日々の生活を楽しめるような工夫を取り入れ、安全に暮らせる空間づくりを心がけた。
現在は二人暮らしだが、ご両親との同居に備えた個室も用意されている。「突然のケガや病気で救急車を呼ぶことも想定していますよ」と話す奥様は、玄関や開口部から家の出入りが円滑に行えることも重視したそう。それは、自分たちの終活を見据えつつ、両親の人生もこの家で見守り続けるための心構え。
身体が動かしづらくなり、外出しにくくなった場合にも退屈しないよう、四季折々の花々が咲きほこる庭と季節の野菜を育てるための畑も作られた。天気の良い日は、テラスに置かれた椅子に座りながら景色を眺めたりお茶を飲んだりと、穏やかな時間を過ごすことができる。又、夜は夜景を楽しみながら、バーベキューやお酒も楽しむ事ができる。家にいながら、楽しいずくめの人生が送れるのも同社の設計力のおかげだ。
引っ越しをするにあたり、それまで使っていた家具や持ち物のかなりの量を処分することになったというご夫婦。「片付ける」ことは、自分たちに必要なものと不要なものとを分けていく作業でもある。それは、家づくりでも同じだ。今回の家づくりでTさんご夫婦が一番に望んだのは「自分の家で人生のすべてを暮らしたい」ということ。そこで必要になったのが暮らしの中の「安心」と「楽しみ」だった。建物の出入りはスムーズなT邸だが、庭から敷地外へはプライバシーとセキュリティーを兼ねたフェンスとスウィングアップゲートで厳重に遮られている。徘徊の心配をなくし、安心してガーデニングを楽しむためだ。
「子どもたちは巣立っていきましたが、これからも生きがいを持って暮らしていきたいですね」と奥様。片付けをしている際、娘たちが幼かったころに描いた作品が出てきたといい、それらがリビングやキッチンに飾られている。リビングに置かれた小さなテーブルは、奥様が5歳のときに父親が作ってくれた勉強机なのだそう。
【ミューズ建築工房/鹿児島】