独特の陰影を帯びた光が、三和土の土間床をずっと奥まで照らしている。雑誌で目にしたその静謐な空間美に惚れ込み、自宅玄関に同じ意匠を取り入れたMさん。こだわりの土間玄関は、一部屋取れそうなほど広く奥行きがあり、足元に長く設けた間接照明が作る光だまりに、しみじみと見とれてしまう空間だ。飾りとして取り入れられた昔の祖父母宅の柱や梁、古い和箪笥やレトロなソファも存在感を放ち、不思議でノスタルジックな雰囲気が漂う。くぐり戸があるのも楽しく、通り抜けた先に待っているのは、なんとシアタールーム。ありがちな住まいの間取りにとらわれず、自分たちの感性を潔くかたちにしている。
ご夫婦が正匠と出会ったのは3年前で、モデルハウスや構造見学会に足を運び、その素敵な雰囲気と考え抜かれた家づくりに心魅かれた。間取りの構想にかけた月日は1年近く。「図面を何度も何度も書き直してもらいましたが、いやな顔一つ見せず応じてくれました」と感謝いっぱいのご夫婦だ。
土地はもともと奥様の祖父母宅があった場所。玄関の意匠に使われている柱や梁だけでなく、和室の障子照明にかつての仏壇の扉が使われていたり、和裁台をトイレのカウンターにしたりと、新居には昔の住まいの部材が生かされ、思い出が随所に息づく。全体的に旅館のような非日常感が漂っているのは、ランドリースペースや浴室など生活感の出やすい空間がキッチンの背後に隠れ、収納も見栄え良く造り付けられているから。一方で、キッチンやランドリーなど水回りがまとまっているため家事動線が良く、室内干しスペースや折りたためる家事台など家事楽な工夫が満載なのも嬉しい。そして何より、木や漆喰などふんだんに取り入れられた自然素材の温もりに包まれる心地よさ。空間によって塗り柄を違えた漆喰壁は、それぞれに芸術的で見応えもある。
「早く帰りたくなる自慢の我が家。正匠で良かったなと思います」そんな満足の家づくりを叶えたMさんご夫婦だ。
【正匠/鹿児島】