東市来の湯之元温泉郷のなか。渋い色みを帯びた木の外壁が特徴的な、シンプルながらもひときわ目を引くF邸がある。中へ入ると木の温もりが部屋中に広がる空間。大胆に設けられた大きな窓の外には、小川のある立派な庭がある。
自らが営む店の近くに家を建てたいと考えていたFさん。見つけたこの場所一帯は、水の多い土地柄であることが難点だった。地盤対策として集水を目的とした井戸を設けることは必須。せっかくだからとその井戸から水を引き、造られたのがこの小川だ。水を逃がす役割を担う一方で、一つの意匠として庭を彩っている。小川の両岸には表情豊かな石や木々が配され、それらが織りなす情緒的な風景は、ずっと眺めていても飽きない。リビングで寛ぎながら、ダイニングで食事をしながら、キッチンで料理をしながらと、暮らしの様々なシーンのなかで、ふと風流に心安らぐ時間が持てる。F邸では、和室や浴室、トイレに至るまで、窓から見える景色にこだわり、住まいを取り囲むように植栽が設えられている。
間取りのポイントの一つは、キッチンやダイニングとつながりながらも一部に壁を設けてスペースを区切ったリビング。壁によってキッチンやダイニングの生活感を隠すことができ、品のある寛ぎ空間になっている。また、「子どもたちの声が聞こえる住まいに」と、リビングのすぐ隣に配された子ども部屋は、あえてドアを付けずオープンに繋がる設計だ。「平屋で空間もつながっているので、どこにいても家族の声が聞こえ、会話も生まれる。2階建てだったらこれほどまではなかったかもしれません」とご主人。
料理人として飲食店を営んでいることもあり、自らの仕事と通ずる「手づくり」の良さが、造作の棚や収納など住まいのあちこちに感じられるところも気に入っているそう。仕事道具に合わせた収納や、趣味の服をおしゃれにディスプレイできるクローゼットなど、住み手の暮らし方に丁寧に寄り添い造られた住まいであることが、随所に感じられるF邸である。
【だんらんホーム(イシタケ)/鹿児島】