W邸が建つのは高台の住宅地。南面の見晴らしを気に入り間取りにも反映している。当初はよりよい景観を求めて2階リビングを検討したが、将来の暮らしやすさを考慮して1階だけでも生活できるプランにした。
南に大きく開いたリビングは、ダイニングも兼ねたくつろぎの空間となった。ご主人がこだわった掘りごたつを配し、目線は低いのだが庭との高低差が少ないため、外への広がりを体感できる。窓から空が大きく覗き、室内には木の香りと質感が溢れる。座ったとたん、ここが住宅地だと忘れてしまうほど。
実はもともと庭には畑があり少し高くなっていて、それを有効活用した。濡れ縁からわずかな段差で庭に出られるため、身近に芝や土を実感できる。「遊びにきた小さな子どもたちも、裸足でぴょんと飛び降りてます。もちろん、大人たちにも気持ちいいと好評ですよ」。借景のためにシンプルなデザインの庭だが、おかげで芝の手入れもしやすいそう。
「木造の家に興味があったものの、節が気になったり、逆にキレイすぎたり。なかなか自分たちの感覚にフィットするものが無くて」とWさんご夫妻。そんな時に尾堂産業の『木楽な家』を知り、完成見学会に参加。同社の木づかいを尋ねると「味付けがちょうどいい」と一言。木の質感と漆喰壁との好バランスが大きな決め手になった。
基本的なレイアウトはご夫妻が担当。それをベースに30数プランから選び抜いた構成だ。「手前味噌ですが、動線が素晴らしい」とはご主人。主寝室がサニタリーに近く、朝起きてから出勤するまでの流れがとてもスムーズ。コンパクトな動線上に収納を設け、必要なモノをすぐに出し入れできるのも、W邸の生活しやすさに直結している。しかも壁面や階段下といったスペースを生かした収納なので見た目もスッキリ。
また、陽射しの強い西・東面の窓には遮熱性の高いガラス、南面は日照の短い冬にも温もりが届くガラスを採用するなど、細やかな配慮も施した。
家事の要となるキッチンは、住空間を全体的に見回せる配置になった。それは逆に周りからも見えてしまうということ。そこで見られても気にならないように収納を工夫した。「容量はもちろん、定位置を作ったので整理整頓がラクになりました」。また、使用する電化製品が多いのもキッチンならでは。コンセント数を増やしたり、調理器具を置くスライド板を取り付けたり。奥様の使い勝手に合わせてカスタムできるのも、造作の大きなメリットと言える。奥様がこだわったドイツの家電ブランド『ミーレ』の食洗機もセットし、「キッチンに立つのが楽しくなりました」と言わしめる場所になった。
2階は小屋裏風の設えで、収納もできる多目的なフロア。吹き抜けに面した窓へはキャットウォークでアプローチするのだが、腰高窓の外には小さな月見台が。大人が腰掛けられる大きさがあり、ここからはより広々とした眺望を楽しめる。しっかりとした機能性と、心地よく暮らすための遊び心を備えている点も見逃せない。
【尾堂産業/鹿児島】