自然豊かな環境に建つ落ち着いた佇まいのY邸。一見普通の平屋だが、中へ足を踏み入れると想像もつかなかった空間が広がっていた。建物の向い側まで突き抜ける通り土間の玄関。吹き抜けの空間に現わされた柱や梁が、力を以って迫るような感覚。玄関からフロア全体、そして小屋裏まで一体感を感じられる大空間に、木という自然素材の力強さと温もり、そして凛とした趣が静かに漂っている。
お子さんのうち1人はすでに離れて暮らし、現在ご夫婦とお子さん2人の4人住まい。お子さんたちはすでに大きいため、数年で巣立つことを考慮して、夫婦2人暮らしになった後も自由度高く空間を生かせるよう、極力部屋を区切らない間取りを希望した。だんだんと古びていくのではなく、最初から年月を刻んだような趣のある雰囲気にしたいと古民家を意識。柱や梁、障子の枠も古木のような色合いで、床には音響熟成木材「黒」を使用。これだけの大空間であれば冬場の寒さが気になるが「障子を閉めればストーブ1つで冬も温かいですよ」とご主人。風の通りも良く、心地よく暮らせる住まいだ。
ご主人が気に入っているのは住まいに使われている素材だ。構造材や床材など使われている木はすべて音響熟成木材。音楽の波動と常温熟成乾燥によって木の細胞を破壊することなく仕上げたもので、調湿作用に優れ、木の油分やエキスも蓄えたままなので時間とともに美しいツヤが出て、防菌作用も持つというもの。保湿性にも優れているので体感温度が人肌に近く、ひんやり感がないのも特長だ。何よりも肌触りが心地よく、特に床材は木目を浮かせた浮づくり仕様で、素足を優しく受け止める。
また、壁に使われている幻の漆喰も注目すべき素材。自然素材でありながら、光が当たることによって空気中のゴミや有害物質を吸着・分解する作用を発揮する。Y邸では、壁はもちろん天井や土間にも使用されており、「匂いが気にならないのがいいですね」とご主人もその効果を実感されている様子。
最初に驚きを与えてくれた通り、土間はただインパクトがあるというだけでなく、室内にありながらも土足で過ごせるという、外と中の中間的スペースとして様々な役割を果たす。外で使う道具類を風雨にさらさせず置いておけたり、ちょっとした日曜大工のスペースとして活用できたり。Y邸では洗い場も設けており、愛犬のシャワー時に使えるようにしているのが特徴だ。本来なら外でなければできない作業も、ある程度室内と同じ空間でできる土間空間。Y邸はさらに住まい全体に一体感があるため、家族のコミュニケーションが自然と生まれやすい。小屋裏にはLDK側だけでなく土間側にも気配窓があり、わざわざ階段を下りることなく階下の様子が把握できるのも、家族の絆を育むのに一役買っている。
照明や椅子といったインテリアもシンプルながらおしゃれにマッチし、大空間のなかに繊細なこだわりを感じさせるY邸。ダウンライトやスポットライトが多用され、夜になるとまた違った味わい深さを楽しめることが伺える。
【旭住宅/鹿児島】