標高約40m。錦江湾を見下ろす傾斜地には民家と畑が混在し、実にのどかな眺めが広がっている。そんな地域にN邸が加わったのは2020年の春。
娘さんが小学校へ進学するタイミングでわが家を構えようと計画したNさん夫妻。「海が見える場所」という一番の条件に縁があったのがこの地域だ。自然豊かな環境を気に入り、借家住まいをしながらじっくりと見定めていくことに。残念ながら借家から海は見えなかったが、地域の人との交流や情報交換を重ね、現在の土地を取得。「時間をかけたからこそ、眺望だけじゃなく、地元の人たちの温かさにも気づけました」。これまでと変わらぬご近所付き合いができるのも、家族にとって大きな魅力となった。
厳選した土地での家づくりを任されたのが尾堂産業である。奥様が知人から「木の家を建てたいなら見ておくべき」と紹介され、建築現場も見学。ご主人は「職人による丁寧な仕事を体感し、迷わず決めました」と顔をほころばせる。
プランの軸になったのはやはり〝海〟だ。「リビングから海を眺める暮らしに憧れていましたから」と微笑む奥様。フロアに入った時はピンと来なかったが、南東それぞれの全開口サッシを開け放つと、初秋の爽やかな風とともに鮮明な風景が視界いっぱいに飛び込んでくる。選りすぐりの木材や漆喰など、自然素材をふんだんに用いた住空間が額縁になっているせいか、景色に優しく包み込まれるような感覚も。
さらに、窓の外にはL字型に設えたバルコニーを用意。そこには最高の見晴らしが待っていた。悠々と横たわる錦江湾の向こうには桜島が鎮座。ちょっと外へ出ただけなのに、胸が高鳴る経験を味わえる家はそう多く無いだろう。それを叶えたのは、2階リビングという選択。実は事前のリサーチで、平屋造りだとすぐ下に住宅が建ったら窓からの景色が台無しになる、との声を聞いていたそう。土地を下見した同社からも「こだわり抜くなら2階リビング」との提案があり、唯一無二のわが家が実現した。
プライベートゾーンは1階に集約。平屋のように個室と水回りが同じフロアにあるため利便性も高い。加えて、同社が得意とする効率のいい家事楽(かじらく)動線や収納計画も見どころだ。特に、洗濯機のある脱衣室は室内干しができる広さを確保し、外へ直結する勝手口も用意。ファミリークロークも隣接させ、洗濯動線がコンパクトにまとめられている。また、屋根で集熱して床暖房に用いる『びおソーラー』や床下エアコンも搭載。2階リビングでも一年を通じて快適な住空間を実感しているとのこと。
2階はLDK+和室+トイレのシンプルな構成。キッチンの横にはワークデスクが備えられ、仕事や宿題などもここで行うことができる。「晴れの日はもちろん、雨の日は濡れたデッキが水面みたいに光って、また違う美しさを楽しめるんですよ」と奥様が言えば、「時間があるとバルコニーで何かを焼いて食べています」と笑うご主人。二人の言葉から、自分たちらしい暮らしを楽しむ様子が伝わってくる。
【尾堂産業/鹿児島】