閑静な住宅地の一角に建つN邸は、2階から突き出したバルコニーと抑揚のある植栽が印象的。この2つの特徴は、実は室内においても重要な役割を果たしている。N邸は、35坪と限られた土地ながら十分な広さを確保するために2階リビングを選択。そのリビングには全開放型の大開口を設け、広々としたバルコニーへとつながる。そしてバルコニーの柵越しに顔を覗かせるのが、背の高い植栽たち。室内にいながらも開けた空間と自然を感じられる。当初2階リビングに抵抗のあった奥様だったが、住んでみるとそのゆとりある空間と見晴らしの良さにすっかり虜に。「空との距離が近く感じられ、昼は鳥や雲の動き、夜は月見を楽しんでいます」と笑顔の奥様。また、1階と2階の上り下りの苦を軽減するために、あえて天井高を低くして階段の段数を減らした。おかげで行き来に不便はないと言う。天井高を抑える一方で、2階の天井の一部はロフト高まで吹き抜けで開放的。上手な縦の空間デザインで合理的かつ快適な住まいとなっている。
広さにおいて制限があったにも関わらず、自由度が高いN邸の成功の秘訣は逆転の発想にある。1階にリビングという概念に囚われず、天井はただ高ければ良いとせず、いかに家族にフィットするかということをシンプルに貫いた。子ども部屋は設けず、現在中学1年生の娘さんは、キッチン横のパントリー兼ワークスペースをスタディルームとして使用。家事をするお母さんが近くにいる安心感がありつつもほどよく個室感があるから勉強に集中できる。また、まだ3歳の息子さんは2階のリビングが遊び場だ。フロア全体に間仕切りがないから、自由に走り回れる。ロフトは主に収納を想定していたが、窓やワークデスクも設置してあり、書斎であったり、将来的には子ども部屋であったりとライフスタイルに合わせて使い分け。このようにN邸はフレキシブルなつくりだから、気分や用途、ライフステージに応じて変幻自在。柔軟なプランニングで多彩な空間活用を実践した可能性が広がる家だ。
【ベルハウジング/鹿児島】