切妻屋根に差し掛けた、深い下屋が特徴的なT邸。緑が残る環境と相まって、どこか懐かしい和の風情を感じさせる。「縁側で和むような暮らしや、伝統的な日本家屋の佇まいが好きなんです」とご主人。そんな思いを汲み取ってくれる造り手を求め、家づくりをスタートしたのだが、なかなかピンとくる出会いがない。それまで優先的に探していたのだが、ハウスメーカーや県内指折りのビルダー。「ふと地元の工務店ではどうだろう?との考えが浮かびました。最寄り駅の近くに尾堂産業があったので調べてみると、まさにこれだったんですよ」
同社は、天然木・漆喰など素材や自然エネルギーを活用する造りが信条。加えて、光や風を取り入れながら自然室温で暮らすための確かな性能やデザインにも注力している。ご夫婦ともにアレルギー体質ということもあり、自然の恵みを活かす家にも興味を持っていた二人には、運命的な巡り合わせと言えるだろう。
Tさんご夫婦と同社のファーストコンタクトもちょっとユニーク。二人はなんと飛び込みで「相談にのってくださいませんか?」と訪問したのだそう。そこで家づくりに対する要望や趣味・趣向だけでなく、「私たちだ今後どう暮らしたいのかや、一日の生活の流れや習慣にしていることなど、細かな点まで聞き出してもらえました」
T邸には、こうした丁寧なヒアリングを反映。主寝室からウォークスルークローゼットを通って洗面・浴室に続く間取りなど、ライフスタイルに沿ったプランで快適な日々を送っている。
わが家のお気に入りポイントを聞いてみると、第一声が「木の香り」。帰宅してこの清々しい香りに包まれると、仕事の緊張感が解け、リラックスモードに切り替わると言う。共働きのため、平日に二人がゆっくり顔を合わせられるのは夜間のみ。くつろぎの時間をさらに演出できるよう、リビング照明の色は温かみのある電球色を選んだ。「早く帰りたくなる家ですね」と、ご夫婦で顔をほころばせる。
実はT邸が建つ敷地は、カーブした側道と背面の造成地に挟まれ、ひょうたんのような長細い形状をしている。開口も狭く、住宅を建てる上では不利な条件が目につく。対して、もう一つの候補地は住宅地内の整った敷地。あえて今の場所に決めた理由は、JR駅にも買い物にも徒歩圏内の利便性。そして何より、不利を魅力に変える個性豊かなプランにあった。
南北に長い土地に間取りを合わせた結果、建物は18mのロングサイズに。幅にゆとりがないので、文字情報だけでは圧迫感が心配になる。しかし実際の室内は写真の通り。吹き抜けの天井や窓の配置、開けれは一体感が高まる引き戸を使った開口など、同社のアイデアが満載だ。なかでも挑戦的なのは、深く低い下屋。和室とテラスに使われているのだが、低い天井がもたらす居心地のよさは格別なものが。抜けのいい眺めと我が家をさらに楽しむべく、庭やテラスの活用にも想像をめぐらすTさんご夫婦なのだ。
【尾堂産業/鹿児島】