とある住宅地の一区画。個性的な住宅がズラリと並ぶ中、ちょっとだけ外構のテイストが違う家がある。それがM邸だ。
側道に面して設けた駐車スペースは、新築ならなおさらそれとはっきり分かるように整えられているのが一般的。しかしM邸は、「庭かな?車を停めていいの?」と、つい思ってしまうほどナチュラルな設えとなっている。実はこれ、奥様のリクエストによるもの。駐車スペースは石を敷き詰めてあるのだが、合間から草が生えるのも承知の上。アプローチの階段には草原の小径のような風情が漂い、盛り土の土留めには、鹿児島では古くから馴染みの溶結凝灰岩を。しかも古民家の石垣などに使われていたアンティーク。それらの隙間にも、まるで昔からそこに在ったように小さな緑が覗いている。「草花は自分で植えたものも、勝手に伸びてきたものもあります。バランスを見て、抜いたり抜かなかったりですが、手入れに抜かりはありません」。
室内に入ると、大きな吹き抜けが出迎えてくれる。ゆったりとした空間を彩るのは、堂々と現した梁や桁。白い漆喰壁とのコントラストはずっと見ていたくなるほど美しく、ワンルームのように一体感のある間取りを際立たせている。
訪れたのは残暑厳しい日だったが、どこを案内してもらってもムワッとした暑さを感じない。稼働しているのはエアコン1台だけ。空気の調湿・浄化作用を持つ素材が特性を発揮しているのだ。また、太陽熱を活用する『びおソーラー』の導入で、冬は家全体がほんわかと暖まる。夏は放射冷却を使った換気も行うなど、一年を通じて身体にも家計にもムリのない自然室温を目指すエコなシステムだ。
「夏でも室内はカラッとしています。家族だけの時は、窓を開けて過ごすことが多いですね」と奥様。ダイニングには全開口サッシが備わり、のどかな風景を日常に取り込む。室温だけでなく視覚的なリラクゼーションも、快適性を高める一端になっている。
【尾堂産業/鹿児島】